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チロル ペティグリュー山のすてきな季節

ペティグリュー山のすてきな季節(1)

「はる」

ベリル・ペティグリューが生まれたって!

ヴアリ・ペティグリューがここにきて、はじめての子供じゃないか。


彼女は住んでる石氷柱の穴のいちばんいいところにじっと体を休めていた。あそこはぼくらにも宝石の降ってくるようだよね。天井の穴から昼と夜が入ってきて、晴れの日にはぼうぼう草むらの上でみんな遊ぶし、雨の日にはどうどう滝が降ってきて遊ぶね。

そんな宝箱で生まれるベリルはさぞ幸せだろ。


ベリル・ペティグリューは大きな翼をばたばたさせた。


ここいらのみんなはもちろん、春の商人もその様子を見に来た。きらきらの瞳もぬらぬらの瞳も、ばらばらの瞳も、たくさんかがやいて宝石箱のまんなかみたいだった。ちいちゃな子どもが、よっとで立って、おっとで転んで、あれあれきょろきょろ、と周りのみんなを見るんだ。どっとみんな笑った。きらきら笑った。ヴアリさまが舌を出して、かわいい子の体を支えてくれた。体中冷たいヴアリさまも、舌ベロと、日に当たった時はようくあったかいんだ。


「ベリル・ペティグリュー! おはよう、よく目は覚めたかい?」


春の商人がはじめてそう呼んだので、春の商人は名前をその子にやった。


ここらでいっとうすばらしい石氷柱の穴の中、穴の中でいちばん緑と花の色がある場所の上で、やさしい親ごさまと楽しい仲間に祝われて、いっとき訪れた人が来た時生まれたベリルは、世界一幸せなかわいい子だ。

この穴も、穴の外も、ここいらに住むみんな、宝物のようにすばらしく美しいこと。

ベリル・ペティグリューは宝箱のいちばん上で、大切にされて育つのさ。

つづく

次回投稿  7月3日 12時予定

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夢旅団チロル

はじめまして!文芸創作チーム夢旅団の団長チロルです。 うそです。通称チロルと申します。 想像の翼を広げてつかまえた光景を文字にするのがしゅみです。 「文字は遊び相手で、同志であり、親しき仲にも礼儀を尽くすこと」を モットーに今日も書いています。 最近は紙と鉛筆とサイコロを使ったオハナシで遊ぶのもしゅみです。 我々夢旅団のメンバーが書いた名義で本を出したり 中編やオマージュ作文などにもチャレンジしています。 夢旅団SSと称して短いお話を書く修行もやってます。 ファンタジーと水色時代を大切に、大人の苦みめざして成長中です よろしければ言葉と遊んでいってくださいな!

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