ベリル・ペティグリューがどこかに出ようとした時、冬の客人たちが迷い込んで火を焚こうとしていました。
白と茶色が交互に並ぶ、色あせた景色の中で、数少ない緑色の針山を彼らは勝手に刈り倒し、ぼうと火が盛ってばんと弾けるのを楽しんでいました。
どうとふくらんだ熱が空気を呑み込み、おくびをしました。樹の上の家族は悪い風を吸い込み、土の中の一家は身体が煮えたぎりました。空を突き上げ、地を駆ける頃には、辺り一帯は鮮やかに明るく、まさか我までと動かぬ者達を引きずり込みました。
みんな眠気で足取りが覚束ないまま、歩きにくい雪の上を、とにかく上を目指しました。ベリルは、自分たちが住む穴へ、みなが逃げ込もうとしているのがわかりました。深々と氷の粒が煌めく中では、目も鼻もまるで効かないのでした。ベリルは心をまっすぐにしならせて、一番高い所から飛びおりました。
ごごごごごお、と炎よりよほど大きいけだものの声が響きました。
ベリル・ペティグリューはばんと翼を広げて居座っていました。
かわいい子が叫ぶ時の甲高い声と、獣のたける低い音をみんなは目指します。みんなが通る時、大きな翼は焔の息吹の壁になるには十分すぎる広さでした。音に近づくにつれ、空気が震えているのは地響きもあるのだと気づきました。木の悲鳴でした。誰かが穴に逃げ込むと、ベリルは叫んで周囲の樹を牙で折り倒しました。
血走った目、鋸が飛び出たような牙、地を踏み鳴らす足、曲がることを覚えた柱のような尾をもつ巨大な怪物。
巣に逃げ込んだ者たちのほとんどがそれと知らずに怯えていました。
樹のない場所を火は避けて通ります。火の行く手から雪を浴びせ、殴りつけ、質量を持った風を叩きつけます。丸太を穴の前に積み上げ、悪い煙に羽ばたきをぶつけます。
怖い化け物がふたつ、叫びうなり狂っているので、みんな石氷柱の穴から出ようとしません。だれかがヴアリさまをあたためようとして、彼女の涙が凍っているのを見ました。
ベリル、私のかわいい子。だけど私とはちがうのね。
私とは同じように飛べないことを、一番わかってあげるべきだった。
ベリル、この場所が壊れる。
せかいいちきれいで幸せなことを、おまえのやり方で教えてあげなさい。
ここをおまえのやり方で、壊れるのをふせいでみせてちょうだい。
ヴアリさまは天井の穴に向かって、おもむろに巨体の首を伸ばすと口を開けました。そして赤い海が引くまでの間、雪の中にいくつもの化け物の声が響いていました。