Colorful Rat

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チロル

も一度読みたい!昔ばなし:2

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Q:ごん、お前だったのか

A:いいえ、夢旅チロルです

Howdy!

  → 昔ばなし1

 アホなこと言ってないで本題に入りましょうね。 今回は日本の昔話から取り上げます。メニューはおはなし、考察の前後編。おはなしは、みんなご存知「番町皿屋敷」です。私なりに色んな話を拾ったりして、今どきでもわかりやすくアレンジを加えてみました。前回言いましたしね。 それでは、むかしむかしのおはなしをゆったり…え?前回読んでない? 今すぐ読んでk今日はテーマを先に言いましょう。

『こわい昔ばなし』とはなんなのか?

     

     

◎番町皿屋敷

 少し昔のお話です。えらいお役人さまのお屋敷が、五番町にありました。

 そこにがんばりやの女の子が、住み込みで働いていました。名前は、ヒナ。 ヒナの家は貧しく、母も重い病気でした。困っていたところを、縁あってお役人さまの家で働けることになりました。これを奉公、と言います。 ヒナの仕事はいわゆる、メイドさんのようなものです。

「お役人さんも、がんばればお嫁に行けるって言ってたわ」「もらったお金は、母さまの病気のお薬のために、仕送りしましょう」

 ヒナはけんめいにしかもじょうずにお仕事していましたが、悩みごとがありました。 ひとつは、屋敷の主人であるお役人さまのこと。 お触れを出したり、町のつくりを考えたり、悪い人をつかまえるのが仕事です。そんなえらい人が、

「おお、ヒナ。ここにいたか。ちょいと、こっちにおいで」「ひぇ! だ、だ、旦那さま。私は今、そうじ中で…」「構わん少しは休め、休め。おれは今ヒマでなぁ。酒の相手が欲しくてな、となりに来い」「そんなめっそうも」「どうした、おれの酒が飲めぬかね?」…主人に言われては逆らえません。

「おお、赤くなった、赤くなった。よっく見せてみろ」「うぇええ、おやめください、目が回る、ううう…」アルハラです、セクハラです。そこに奥方さまが通りかかりました。

「あらあなた。下女と遊ぶなど品に関わりますわ」「うえええん、奥方さま!」ヒナはフラフラで逃げ出し、必死に頭を下げます。「ヒナ、仕事にお戻りなさい」「はいいいい!」

 しかし、こういうことはずっと続きました。 もうひとつの悩みは、先輩からよく仕事を頼まれ…もとい押し付けられること。 ヒナはすなおでいちばん後輩ですから、仕事はちゃんとやります。けれどヒナが少しでも時間をかけたりヘマをすると、ぐちぐち言われたり食事を抜かれたり物を隠されたりするのです。

 どうしてまじめなヒナがひどい目にあわねばならないのでしょう?

「きーーーっ! 若いからって、ちょっとかわいいからって!」

 それは奥方さまの仕業だったのです。

 ヒナは働き者でかしこく、若くてかわいい。いっぽう奥方さまはもうオバサン、おまけに今まで子どもも授かれていません。旦那さまはヒナと遊びたくて、奉公に雇ったのでした。うらめしい! それで奥方さまは他の奉公人たちに、おさないヒナをいじめるよう命じたのです。それでもヒナは母のため、がんばっていました。

          

 ある日、お屋敷でうたげがありました。

お役人さまはお客さんにあいさつし、みんなせっせとおいしい料理を作り、部屋をきれいに飾ります。 奥方さまはとてもえらい人からもらった上等なお皿を出してきました。ところがそれを、ばりん!

「やだ、家宝なのに! お偉い様にも怒られちゃうわ。こうなったら… …ヒナ、ヒナ! 同じお皿を倉から取ってきて、10枚ね!」

もちろん、あるわけありません。さっき奥方さまが1枚割ったのですから。ヒナのあわてた声が響き、9枚のお皿を持ってヒナが青い顔で奥方さまのところにやってきました。

「お、お、お皿が足りません!」「なんですって? ちゃんと数えたの?」奥方さまはすっとぼけます。「ひい、ふう、み……きゅう! ない、ない、ない!」そこにすかさず叫びました、

「ヒナ、大事なお皿を盗んだわね!」「えっ…! そんなことするわけ」「いいこちゃんに見せかけて、結局育ちの悪い…あなた、あなた! ヒナが家宝のお皿を盗んだわ!」「ちがいます、やってません、盗んだり・・・」

 お役人さまのお仕事は、悪人をつかまえて、どう悪かったと言わせて、罰を与えること。ヒナは屋敷の旦那さまであるお役人さまに檻に放り込まれて、

しばられて、 殴られて、 ムチを振るわれ、 いたい、いたい思いをして、

「やってません、やってません! おゆるしを、おゆるしを!」

「あんなにかわいがってやったのに、恩を仇で返すか! 薄情者が、白状せぬか、ならば10枚ひと揃えの意味を教えてやる!」

――いたい、いたい、ひどくいたい。ヒナは何もしていないのに。

あの褒美の皿をなくしたと知れれば家も罰されようが、その前に…。 ヒナは夜、ぼろぼろの体でどうにか檻を抜け出しました。けれど行く当てもなし。

「父さま、母さま、ごめんなさい」 ――ぼちゃん。

「下女が逃げたぞ!」「泥棒が井戸に落ちたぞ!」

 どんな形であれ、にくい女がいなくなって、奥方さまは満足しました。

           

 その事件も忘れられ、月日が経ちました。奥方はやっと子どもを授かり、元気な男の子が生まれました。ですが、生まれた子どもを見て、産婆は、お役人も、顔を青くします。

「あなた、どうしたの? 坊や、お母さんよ…」奥方も、真っ青になります。

「ヒナと、同じ位置…」「指が…一本ありません」「ひどい、どうして、そんな、ヒナ…

 ……ヒナ? ヒナなの? そこにいるの? ヒナがやったの? ヒナにしたの?」

ヒナが、坊やを、私が、ヒナに……奥方はあわれな坊やを見ました、どこかに幻を見ました、もう旦那のことも坊やのことも見えません。すっかりヒナの幻に取り憑かれてしまったのです。けたたましく笑い、叫び、うわごとを呟き泣く奥方さまの姿は屋敷中に知れ渡りました。

 それからです、お屋敷がヒナの影におびえるようになったのは。

井戸から1枚、2枚、3枚、最後まで聞いたら祟られる――1枚足りない。

階段から落ちた者を笑うもの、それが足を滑らせること、さまよう奥方は指さしヒナ、ヒナがやったと泣き叫ぶ。ヒナに悪くした者にヒナが仕返したから私の番よと笑うのです。 ごうごう悪い風が吹く、家財がガタガタ揺れる、突然皿がガシャンと割れる、不意に暴れた馬が人を蹴る、みながビクビク震えてうわさします。ヒナのせい、あれはヒナが呪わしいと恨めしいと泣いている叫び声。 人の口に戸は立てられず、やがてうわさはよけいにふくれあがって屋敷の外まで飛び火します。

それに一番怒ったのは、屋敷のお役人でした。

「たかが下女一人、それほどの力はなかろう! 妻は疲れているだけだ。悪い事にばかり目が向いて、それを幻のせいにするなど情けない! 俺が例の井戸まで行って、そのようなモノなどいないことを証明してやる!」

 翌朝、井戸の前で役人が死んでいるのが見つかりました。

腹に刀が突き刺さっていて、地面を血みどろで汚しながら死んでいました。井戸の方に手を伸ばしながら死んでいました。許しを請うような姿で死んでいたと人は言いました。

奥方は、はなれでげたげたと笑っていました。

 お上は五番町の屋敷の者たちをばらばらに追い出しました。役人が死に、奥方が狂い、子どもは指が足りない。奉公人も、もうここに勤める意味はありません。

ヒナの亡霊は本当にいたのかって? 確かめようはありません。ただ誰もがヒナの祟りを恐れ、悪いことがあるとヒナのせいになりました。最初にヒナを誰がどう恐れさせたのか忘れてね。 そう、罪のないヒナを、屋敷中がいじめ死なせたために、みんなみんな悪い結末を迎えたのです。

ぼろぼろにさびれた屋敷だけが、ヒナの話と共に残りました。誰もいない庭の井戸に、かろうじて吊り下がる桶が風に吹かれて、がらん、がらんと言いました。 1枚、 2枚、 3枚

 ……1枚足りない。 ぼちゃん。

     

 それからどれだけ経ったか。

旅の和尚がこのあわれなむすめの話を聞きました。町の人々がみな、この娘におびえて暮らしている。彼女のためにとむらいが必要だと、和尚はヒナがなぜこの世に残り続けているかを考えます。

そしてある日の晩のこと、和尚は五番町の屋敷跡に向かいました。荒れた庭の井戸の前で、静かにその時を待ちます。がらんがらん、と桶が揺れて泣きます。泣き声はやがて、皿を数え始めます。

 1枚、 2枚、 3枚、 4枚、

 5枚、 6枚、 7枚、 8枚、

 9枚、 「 10 」 10枚――

ああ、あった、足りた、足りた。うれしい、うれしい、ああ、よかった。

桶はからんと井戸の底に落ちて砕け、もう風に泣くことはありませんでした。

 ……それから和尚はヒナのためにお墓を建ててとむらい、ヒナの話をあちこちに聞いて回りました。何があったのか、なぜそうなったのか。和尚はヒナがよく安らげるよう、二人めのヒナが出ないよう町の人に言って聞かせ、また旅に出たのでした。

和尚は旅先で、ある屋敷で起きた悲しく恐ろしい話をしました。それこそ様々な身分、暮らしをしている人たちに、分けへだてなく。やがて話を聞いた人たちも、話を他の人に語り聞かせました。

 そうしてこの話は「番町皿屋敷」として語り継がれ、私たちの時代でも多くの人が知っているのです。

   

   

〇 『「番町皿屋敷」考察編』2.1に続く 〇

  → 考察編2.1

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