も一度読みたい!昔ばなし:3.2

いっけな~い! 遅刻遅刻~!

Howdy! 夢旅チロルです!

「白雪姫」翻案と妄想の執筆第三弾です。まだ読んでいない方は、下記のリンク「3」から飛んでください。興味があれば、1から各再話・考察に飛ぶことができます。そろそろ挨拶のネタが尽きてきた(あやうい)

  → 昔ばなし1

  → 昔ばなし3

◎このページでは分岐ルートを採用しています。分岐XとY、片方が書き終わりましたので一度投稿し、後でYルートをその下に追加します。考察は物語パートを書き終えた後に執筆します。いつも読んでくださっている方はありがとうございます。完結までしばらくお待ちください。

◎21.3.9. いまどきルート・むかしながらルートの両方を更新しました。あとは考察で白雪姫については完結です。待ってくださっている方、ありがとうございます。もう少しお待ちください。

 

 

 

☆白雪姫:前回までのあらすじ

白雪姫は狩人によって逃がされ、小人たちと森で様々なことを学ぶ。一方姫の生存を知った王妃は姫を暗殺しようとするが、森の者たちによって救われる。だが三度目に王妃が姫に仕掛けた呪いは、森の誰にも解けないものだった…。

試練、壁の高さ、壁の痕。

 

 

 ある日、森の中に美しい少女が倒れていると森の者が白雪姫に知らせに来ました。美しい服を汚し、ふところにりんごひとつだけの少女を姫は小屋に連れ帰り介抱します。目を覚ました少女は疲れた顔で辺りを見回し、姫を見てワッと泣き出しました。

「うう、…おねえさま、おねえさま、わたし、おかあさまにおうちを追い出されたの……これから、どうしよう……」

その姿はまるで昔の自分のよう。姫が一生懸命慰めると、少女はじきに笑顔を取り戻します。しかし少女を迎え入れるため、家の扉を開けようとしてもびくともしません。

「仕方ないわ、何か食べましょう」「じゃあおねえさま、このりんご、はんぶんこで、食べたい!」差し出されたりんごを、姫はまあ一口とかじりました。

 姫は倒れ、少女の皮を剥いだ魔女は高らかに笑い、その場を去りました。

 

『家として欲張りな私をお許しください ひとつ願うは姫の命を ふたつ願うは姫を守ると みっつ願うは姫を救えと』

「嬢ちゃん、嬢ちゃん……」

 ついに、美しく賢く優しい姫はそれがために、陥れられてしまったのです。小人たちの努力むなしく、冷たい体だけがそのまま。せめてと彼女のベッドを棺に作り変える頃には、小屋はすっかり傾いてしまいました。小人たちもただ無気力に、姫の棺を囲う日々を過ごしました。

 ……そうして悲しみにくれる森の中に、一人の男が入ってきました。

男は森の川や藪や獣をものともせず、森の奥深くにある小屋の跡地に辿り着きました。 森はざわつき、小人たちも当然姫の棺の前に立ち並びましたが、男を実際見て怖気づきます。丈夫な服に立派な衣をまとい、飾りでない防具と武器を携え犬を連れた屈強な男は、何より気品があったのです。そして既視感も。

「気高き乙女が棺の中で眠っていると聞いたが、まことか?」「は、はい…」「見せてくれないか」「ですが、もう死んでおります」「構わない」

姫の棺を開けた男はしばらくその顔を覗き込んでいました。今や森中の視線がこの棺の周りに向けられています。小人たちは奇妙な男を見守りながら話し合います。「あれは誰や? 見たことあらへんか?「こうして見せて大丈夫なんかいな?「嬢ちゃんの事どうして知ったんや?」やがて一人が、おずおず話しかけます。

「死んでいるのに、ずっとこのままで。まじないでもかけられたようです」

「彼女は呪い殺されたのだ。彼女はある想いに飢えていたがために、付け込まれたんだ。だがこの森にいる間、気品を捨てず、共に在る者の事を考え、思いやりは慈悲深かった。がために、強い祈りの力でこの世にとどめられて…」

 悲しそうに話す男は、突然乙女の体を棺から抱き上げました。あッ、と叫んだ小人たちの前に、白馬が足を踏み鳴らしました。 そして男は愛しい者にするように、やさしく、姫にくちづけたのです。

男のいくばくかのくちづけのあと、姫の唇から暗い欠片が零れ落ち、溶けて消えました。姫と握った手のひらから温かさが、鼓動の音が重なり、まばたきし、すうっと吸い込んだ空気。 乙女は、目を覚ましたのです。 彼女はいくつかむせ返り、男の顔をしっかりと見ました。

「・・・かりうどさま?」

「ああ、そうも呼ばれていた。久しぶりに会えてとてもうれしいよ。白雪姫。貴女は別れた時から変わらぬまま、成長した。きっとそうなると信じていた」

「どうして…ここに、私は…その姿は……」

「女王だ。彼女の呪いのため、貴女は今まで眠り続けていた。俺は修行のために女王と貴女の城にいたが、あの時は助けられなくて本当にすまなかった。俺は、本当はこの森の国の王子だ。父上がこの家からの声を聞いてね、貴女を救うために駆け付けたんだ」

「では、王子さま?」「だーッ! 見たことある思うたらあン時のオッサンの息子…いや無礼を許してくださいな!」

 王子と白雪姫は、慌ててひれ伏す小人たちに笑いかけます。「無礼講である」と王子が嬉しそうに言った途端、小人たちは飛び跳ねて踊りだします。互いに握り締めた手は、すっかり大人になってもあの時と同じものです。

「あなたは二度、二回も私の命を救ってくださったのですね、王子様。ありがとう。ありがとうございます」

王子への感謝の気持ちを、姫はすなおに伝えます。森中からも、姫の目覚めを祝い喜び歌う声が、感謝の声が響いてきます。

「白雪姫さま! 私はあなたに傷を癒してもらいました!」 「白雪姫さま! あなたのおかげで俺たちは仲良くできました!」 「白雪姫さま! ぼくの子供たちはあなたによって健やかに育っています!」 「白雪姫さま! あなたは森に楽しみを吹き込んでくれた!「喜びを知った!「悲しみを乗り越えられた!「森と共に育った!森の光だ!」

「「「 白雪姫さま! どうかあなたのお望みの幸せを! 」」」

 響く声援の中で、白雪姫は王子をじっと見つめます。しばし顔を見ていましたが、やがて真剣な顔で頑丈な鎧やよく手入れされた銃、衣や腕やをぺたぺた触り、ふたつ頷くと、王子の頬に手を添えて強い意志を込めた瞳で言いました。

「王子さま。この先私とずっといっしょに、この森をもっと良くするために、力を尽くしてくださいますか?」

「ああ、はは……これは、手厳しい伴侶になりそうだ。誓おう、俺はずっと愛すると」

照れたようにそう答えた王子に、今度は白雪姫からキスしたのでした。

 

 

☆いまどきルート

 森の国の立派なお城に、白雪姫は迎えられました。小人たちや特に姫を慕う森の者たちも着いてきて、そしてまた王国の者たちにもとても歓迎されたのです。父王は王子と姫が互いに大人になった頃に、また巡り会わせるつもりだったのでした。 父王は王子のカリスマと心の強さ、姫の知恵と心優しさを確かめ、結婚を認めました。王位も譲られることになりました。なんやかんやありましたがこうして、

二人は森の国の新しい王と女王になったのです。

 

 一方、姫を討ち取った妃はすっかり満足していました。そこに夫の王から、「森の国に新しい王と女王が生まれた祭典」の知らせが入ってきました。昔王子を猟師として迎え入れていた縁もあり、どれ、新しい女王の顔でも確かめてやろう、と妃は森の国へ発ったのです。

 祭典の日は見事なものでした。国を挙げての祭りです。花が咲き、音楽隊たちは奏で踊り、城は輝かんばかりに飾られています。民たちも城の庭で料理と享楽を楽しんでいます。 女王も夫や貴族らと共に城に着き、少し風変わりな使用人たちに手を引かれて、王侯貴族の控室へと案内されます。招待された者たちは城一番の広間に招かれて、絢爛な席で豪勢な料理でもてなされる事になっていました。 さて、宴の始まりです。王と女王の二人は最後に入室することになっていました。その前に、コックとその弟子たちが料理を配り始めました。何やと首を傾げる貴族たちにコックが説明します。

「こちら、女王様の意向でお先にと。りんごのコンポートでございます」

配り終えた頃に、森の国の新しい王と女王が広間に入ってきました。

二人の姿を見て、妃は顔を真っ青にしてりんごを取り落とします。あの元猟師はまだしも、隣にいるのは憎く美しい白雪姫ではありませんか。妃の全身が真っ赤になる中、王侯貴族たちは新しい王と女王にどよめき、賛辞の言葉を送ります。二人は礼をすると、王が良く響く声で話し始めました。

『みな、森の国の新しい門出を祝うこのすばらしき日に、集まってくれてたいへん嬉しく思う。私も我が妻も、この国を愛しこの国のために良く務める事を誓おう。そのために、貴方がたとも手を取り合って』

「おかあさま!!!!!」

 壇上から突然走り出した女王に「ちょっ、ユキ」みな唖然と彼女に釘付けになります。喜びと涙で潤んだ顔さえ美しい女王は、まっすぐに、ある国の女王に抱き着いたのです。そう、顔を白黒させる、白雪姫の母に。

「おかあさま! やはりおかあさま、来てくださったのですね! あ、そういえばお久しぶりです、おとうさま! わたし、もうすごくうれしくて!」

「ついで?」老いて厚化粧をした女性に抱き着く女王に、周りは言葉を失います。誰もその国の姫と森の国の王子が結婚したと知らなかったのです。

「おかあさまには感謝しております」 「どうして…」

「わたしはおかあさまのおかげで、城の外の世界を知り、学び、そして私の望んだ王子…王と共に国を作ることになりました。身を隠しておいででしたが時々、わたしの様子を見に来てくださいましたよね。わたしはいつも、離れたおかあさまを想っていましたよ」 「どうして……!」

嫉妬に焼かれ、悔し涙さえ流す母に、娘は優しく語りかけます。

「おかあさまは、わたしのことがキライだったのですよね。存じておりました。「なッ・・・」でも誰かをうらやんだり、嫌ったりは当たり前で…それに吞まれて、大きな間違いを犯してしまうこともある。おかあさまも、そうだったのでしょう」

白雪の妃は、ひと呼吸置きます。静まり返った宴席の中、緊張した面持ちの王に軽くウィンクして、話を続けました。

「それでもわたしは、だからこそみなにやさしく穏やかであるべきだと、思い、この国で努力を積み重ね、実現することができました。小人の皆さんにはナイショにしていたけれど、わたしはおかあさまからの贈り物をみな大事に取っておいてありますよ」

そして、すっかり老いた母をやさしく胸に抱いて、白雪の妃は確かに言いました。

「おかあさま。おかあさまの間違いを、わたしは許します。ありがとう」

「  …… おまえはどうして、そんなにおひとよしなの!!」

 お妃さまは、叫びました。どこかで鏡が割れる音がしました。二人の涙がぎらつくドレスを濡らし、呪いはちかちかして解けました。もう、魔女はいません。あたたかい母娘の姿に、ある者は涙し、ある者は顔をほころばせ、ある者は少しの苦い顔の後ため息をつき、ある者はそっと拍手を送ったのです。

母娘が落ち着いた後、お妃さまは控え室で休み、宴は続きました。誰もが、この二人はこの国をもっと良くするだろうと思いました。そして、本当にそうなったのは、後のお話です。

 お妃さまは白雪と自分の夫と、森の王とその父王に、己の話を全て打ち明けました。それでも、白雪は母を許します。世の批判からできうる限りで守ると約束します。 白雪は自分にも、母と同じ後ろ暗い心は眠っていると言います。子を授かり育てるには、親自身にも様々な困難がつきものなのです。しっかり考えなければなりません。

 森の王と、女王と、その愉快な小人たちは、国のために知恵と力を尽くしました。ある時は白馬、あるいは猟犬と共に。王族たる身なりと振る舞いで、または民と近しい姿で。その時代を多くの人が最後には、楽しかった、と語ります。 王の力強い心も、白雪の慈悲深い心も、そして妃のみにくい心も、いまの私たちに受け継がれているのです。わかるでしょう?

 

いまどき:11月26日

  

 

☆むかしながらルート

 森の奥の不思議なお城に、姫は迎えられました。小人たちや特に姫を慕う森の者たちも着いてきて、きみょうな庭園をくぐり抜けます。天を仰ぐ広間で、姫は王子の父王と顔を合わせたのです。 熊のような王は杖をつき話します。二人の未来を見て、まず王子を猟師として城に遣わし、姫をこの国へ逃れさせて、後は王妃にふさわしい女性になるか見極めていたと。そして確かに、小人たちの家を作ったのも彼でした。

「我が子よ、よく学び試し心身を鍛えて玉座にふさわしい者と育ってくれた。姫よ、よく体も心も力強く育ち民らの信頼を勝ち取ってくれた。 同じ手を取り合い、この森をより良くするのだ。頼めるかな?」「はい、父上」「ええ、ええお義父さま!」

 こうして森に新しい王と女王が生まれたのです。

王の鷹のような瞳は国をよく見据え、白雪の妃と小人たちが民らに直接勅令を伝えました。また二人の国の外の知識は永く閉じた不思議な森が開くのに役に立ちました。どんないばらの道でも獣でも、二人が歩めば道になりました。退位した森の父も、時折その慧眼で災いを予知して民を救ったのです。 白雪はあの家を偲んで城にもう一度魔法の小屋を建ててもらい、時々昔の生活通り畑を耕したり家族に料理を振る舞ったりするのでした。

 

 しばらく経ったある日のこと、小人の一人が「外の国のえらいさんたちが会いたがってるやって」と言われて、新しい王の夫婦は結婚式もしていないことに気付きました。そうと決まれば、他の国の王侯貴族を迎えて披露宴をする準備が必要です。つまり、白雪の母も招かねばならないという事でした。猟犬は白雪に、母にして魔女の悪逆を話します。

「…いたましいこと。でもわたしに、母の心を変えられる力があるでしょうか。最後はおかあさまが決めるのです」

「俺はあの母に一切咎めはしないつもりだ。だが、この森が許すかどうかはわからない。客人に直接手出しはしないよう良く言い聞かせるが、この森のことはユキがよく知っている通りだ」

 披露宴の準備に、白雪は森の国を歩き回ります。右手で指し示せば草木が道を開け、左手を差し伸べれば食い食らわれる獣同士が城を飾りに行き、歌に声を載せれば泉が咳払いをして清らな水と魚を川に向かわせる、富む土の上を歩けば瑞々しい芽がはしゃぎ躍り出ます。 城の木々は自ら古い葉を振るい落とし、兎や鹿がかまどの前に並び、小鳥たちは多様な布を縫い上げます。小人たちは銀細工を打って、しゃれた服を選び、父王から振る舞いを学びました。

 

 一方、姫を討ち取った妃はすっかり満足していました。そこに夫の王から、「森の国の新王の披露宴」の知らせが入ってきました。昔王子を猟師として迎え入れていた縁もあり、どれ、新しい女王の顔でも確かめてやろう、と妃は森の国へ発ったのです。

祭典の日は見事なものでした。国を挙げての祭りです。鮮やかな花が歌い、艶やかな鳥が踊り、招かれたものは自然と国の奥の城へ導かれるのです。獣たちまでもが城の庭で料理と享楽を楽しんでいます。 招かれた王侯貴族たちは風変わりな使用人たちに控え室に通され、城一番の広間で料理と娯楽でもてなされる事になっていました。

 新築の教会で、皆が新郎新婦を待ちます。二人の間を取り持つ神父と、その手伝いをする修道女、そして白黒の犬が部屋に入り、新郎側と新婦側の客人の出席を確かめます。紙にそれを書き留めていた二人の、修道女の方があるところでひたりと足を止めました。白い犬に羊皮紙を加えさせると、彼女はフードを取り払い、ローブを脱いで、女の前で深く頭を下げたのです。

ただ一色のワンピースに、髪に琥珀の櫛を差し腰に異国の編み紐を結び、黒檀色の髪と赤い血の通った唇、淡雪に等しい滑らかな肌の女性は、よく通る声で言いました。

 「おひさしぶりです、おかあさま」

小鳥が鳴き交わすほか静謐であった教会の中に、音のないどよめきが広がりました。そこに神父はおらず、豪壮な衣服を着た逞しく瞳の鋭い男がある国の女王と己の妻を見守っているのでした。

「おひさしぶりです、おかあさま――わたしをこの森に連れ込んで以来でございますね。二度の贈り物は全てこのように、こっそりと隠し持っておりました。三度目の贈り物は、わたしをこの国の、ほら、そこの今や王で夫であるお方と引き合わせてくださりました。感謝しています」

意味をまことに分かっているのは、女王と白雪、そして森の国の者たちだけです。ただ、この女が新しい妃であり、母娘であり、飾る必要のない美しさがあるとのみようよう飲み込んだのみです。 女王は一度全身が真っ赤になり、真っ青になって、今やべた雪のような灰色の顔で、唇を震わせて己の娘を見上げていました。

「おかあさま、誇ってください。おかあさまの試練が、わたしをここまで育て上げたのですから。楽しみにしていてください、宴の準備はわたしもずいぶん手伝いました…じき晴れ姿に着替えます、料理はわたしの作る限りとびきりのものを、歌も舞いもわたしが教えたものを」

「ああ、ああ、あああああ!!」

だけれど、女王は大声で叫んで立ち上がります。白雪の妃の訴えかけも、もはやまともに聞いてはいませんでした。節くれだった指をがたがた震わせて伸ばし、その首に触れようとしたとき、 差し込んだ陽光が二人の女を照らしたのでした。

「がああああああ――――ッ」「おかあさま!」

魔女がごうと燃え上がります。人々が悲鳴を上げて炎から逃れようとします。魔女は髪を振り乱し、口から火を吐き、よろめいて白雪に燃え盛る体で歩み寄ります。ですが魔女を内から焼く炎は、床も椅子も白雪の服の裾すらも焼くことができません。ただ櫛が砕け編み紐が焼け落ち、遠い地で鏡が横にひび割れたのみ。白雪は手を伸ばそうとしましたが、夫がその手を握り食い止めました。

炎が叫ぶ言葉は、「きれい「きれい「きれい「お美しゅウ」――

 やがて、魔女の炎が風に吹き消され、灰と塵がその場に残りました。

「・・・おぞましい物を見せてすまなかった だが、我が妻たっての頼みであった。この場にふさわしいだけの装束を着る前に、母に会いたいと。それが、このような結果を招いてしまった。 この森では、身を焦がす心は体を焼き、涙は天より雨をもたらす。魔女を、魔女たらしめたのは、その想いで幾度もこの森に踏み込んだためだ。 …場所を移そう、皆の衆」

夫に抱きしめられ、ぼんやりと物思いに目を向ける白雪は気付いていませんでしたが、天井の屋根が誰かに破られていました。

 

 ひとつ事件があった以外は、披露宴はとどこおりなく進み、次の次の朝まで続くほどの盛況に終わりました。いつもの活発なさまがなりを潜め、身も心も美しい乙女がたおやかに振る舞う様子は、他国の者たちに好印象を与えました。王の堂々として広い心の器は、森の民をかねてから安心させました。

 いつまでも続きそうな宴、花火の代わりに虫や花が光り輝き、合奏団が街を練り歩き音楽を振りまく中、白雪は自分たちの寝室の窓から胡乱げな表情で外を見つめていました。ドアをノックされるのにも気だるげに応えます。

「ヒエーッ、ちょっと前まで土くれと仕事しとったんがこうお高堅いカッコウさせられたらかなわんわ。嬢ちゃん、やーもとい女王ちゃんも普段せん振る舞いして疲れたんかいな」

馴染みの小人は部屋に入ると、白雪に親しげに話しかけながら燕尾服を脱ぎ捨てます。その方も見ず、いえ、白雪ははじめから景色も見ていないのでした。だけど問いには答えます。「あれから、考えていました」ほとんどひとり言を。

「・・・わたしは、おかあさまを殺したのでしょうか。あの場で、あのようにしたからこそ、おかあさまの嫉妬に火が付いたと思うのです。わたしは、やりすぎたのです」

突然、そんな話を持ち掛けられた小人はぱちくりと目を見開きます。が、彼ら特有の軽快な足運びで、白雪の隣に並んで背伸びします。「……そいで悩んでたンか。今日、ちょっと時々大人しいなあいうか、ボーっとしてるんが多いと思ったで。やあ、でも、あれだけされたのを今までよう言わんでおれたやん。ちと魔が差して口が悪さしただけで、女王ちゃんは優しい子や」

「そうでしょうか? ああしたいと思ったことに、本音を、面と話したいと思った他に、よこしまな気持ちが、なかったと、断言できない。わたしは魔女の、母の娘です」

魔が差した、というのは、日本語ですが、小人もむうと唸って黙りこくってしまいました。 白雪は少し身を乗り出し、広い広い国土を見渡します。

「わたしは国母になります…姫として遊び回っていたあの時にも、あなたたちのために家を世話していたあの頃にも、戻れません。……わたしには、国を繋ぐためのお役目を果たす責務があります。だけどその時に、女児が生まれることもあるでしょう…、だから……、」

 振り返ったのは、あまりに美しく鋭い、女でした。

「おかあさまがわたし、をうらやんだように……わたしも、母になった時わたしの、自分の…むすめを、 恨む魔女にならぬとは――言えないでしょう?」

 妃が魔女になったのが森のせいならば、

 白雪が女王になれたのも森のおかげなのです。

 「  よう、言うた  」

小人は幼い頃よくそうしていたように、白雪の頭をなでようとします。もう手が届かなくなったことを思い出して、その手を大きな両手で包みました。

「よう、がまんせずに言うたなあ。少しはすっきりしたやろう。ひとりやといやな思いが溜まるやろ。悪い気持ちに向かいよる。言うたかてひとりごとでもアカンしなあ… よう言うた、だからな。今の話を、色んな人にしてみい」

「……そんな、自分勝手な面倒を…かけるわけには」

「誰が迷惑じゃ。俺は俺の育てた娘に悩みを言うてもらえて、そらぁ嬉しいで」

ふくら顔でぶさいくな小人がにっこり笑いかけ、美しい白雪はほほ笑み返したとたん力が抜け、やっと、久しぶりに、小さな子どものように泣くことができたのでした。

 

 森の王と女王は、臣下と共に森の国を治めました。女王は子を授かりました。そして先代の王が崩御し、やがて二人も森の玉座を譲りました。長い歴史にほんの少し、二人の名前も刻まれたのです。 森の国がまだあるのか、確かめるすべはありません。白雪の女王がどう過ごしたかの詮索はやめておくとしましょう。それはまた、別のお話なのですから。

 ひとつ言っておきましょう。妃を魔女にした魔法の力は、今や世界中に広がって、人の心に入り込む隙を狙っているようなのですよ。

 ああ、ひとつは違いました。王子や小人のような悪い呪いを解く人たちも、世界中におおぜい広まったということです。

 

 

初版:20.11.26 更新:21. 3. 9

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