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チロル ペティグリュー山のすてきな季節

ペティグリュー山のすてきな季節(5・完結)

更新日:

「また、はる」

ベリル・ペティグリューが石氷柱の穴から出てきて、宝箱に宝石でも見つけたように目を輝かせた。春の芽吹きが次々世界を彩るさまは、ほんとうにそのようだと、春の商人も思う。


「ベリル、よく目が覚めたようだね。おはよう。

 みんな心配していたよ。それにしてもずいぶん姿が変わったね」


ベリル・ペティグリューは大きな翼がなかった。


ひとたび駆ければすぐどこにでも着いたし、鋭い目は何でも見通したし、大きな声はみんなの耳にも届いたし、空をかげば天気が、土を踏めば実りがわかった。

ベリル・ペティグリューには大きな翼は必要なかった。冬の間に破けて取れてしまったらしい。なぜ使えも、使いもしない翼が生えていたのか春の商人にはわからなかったが、商人は今のベリルが歩くのに足並みをそろえた。ベリルも低く掠れた声をあげて足取りをそろえた。ぐちゃぐちゃの土地や、ばらばらの家を直しているのにベリルが目を向けると、住人たちはにこにこ笑って手を振った。若草の間を、この春新しく生まれたいのちが行進していく。


「ずいぶんと信頼を得たことだね。辛くはなかったかい、ここまで?」


ベリルは緑のすきまからきらきら陽が散っていく様子を眺め、雪どけ水がさらさら大地に染み込んでいるのを聞き入っているらしかった。


「立派になったねベリル。来年はもっと立派になっているだろうね。

 本当にきれいで美しいね、この場所は。次来るときはどんな風にすばらしいだろうね」


春の商人が声をかけて、ベリルは今や小さな相手に首を向けた。そして足を止めていることに気づいて、一歩踏み出した。とたん、泥に足を取られてどすんと転んだ。周りの樹や柵を巻き込んで転んだので、みんなどっと笑ってきらきらした。

ベリルがそのまま起き上がらないのを心配して、春の商人がその顔の方に走り寄ると、どうやらベリルは、目の前の小さな行進がゆくのを見守っているだけのようであった。

よちよち、ぺたぺた、もたもたと小さくてかわいい子どもたちが横切っていく。

その行進の一番最後に、ベリルはべろりと長い舌を伸ばした。



ここで、この宝箱の話の続きはまた今度。



どうどう、かなり。

おしまい
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