あなたもきっと、考えたことがあるはず。
はるか昔の、ある者の未来についての話。
こちらは後編ですので,まず前編からおたのしみください。
「永遠の課題」 後編
「人間は立派に死んだり無駄死にしたりするね」「するねえ」
「俺たちは別に考えもしないけどね。例えば俺を除いて」「へえ、」
「たらふく食うのも飢えるのもだめな生き物、なんて面倒だよ、まったく!」
男も面倒だと思う。
ちっちっち。
「人間ってさ――エラいやつとか、イイやつとか――あるいはワルいやつとか、どっちかにどうもなりたがるみたいだな?」「そうだな。なりたかったな」
男は昔、たいそう偉い人物になるつもりでここまで来た。そしてこの間まで学び働いてきた。だが、そうもいかなくなった。そこで今さっき、悪事を働いた。たいそう悪いことをして、なお開き直った心持ちで門を降りてきた。そして今ぬめりと共に、荒れた都を見ていると、どちらの気持ちもくだらなく思えてくるのである。
「なりたかったけど、やめとくかね。今、どっちも必要なさそうだからな」
「俺らは昔からそうだから、この俺は不思議だよ。食って、育って、子を作って。途中のどこかで食い殺されても、そいつがまた育っていくから別に苦とも思わんのよ」
「土の上で死んでも?」「土の上で死んでも」
ちっちっち、 の、 あと、 しばらくざあっと雨は降っていて、夜の色を覆っていた。
「ま、俺は蛇だし」
「だな、俺は人間だし」
「互いに好きな風に、やりたいように生きようぜ」「おう、よく言った」
雨がやんだ後、男はその辺で火を焚いて、その辺の木の棒で刺したその辺の蛇を食べた。
「意外といけるなこれ」そう言いながら、ぬるりの蛇の顔は忘れんだろうなあ、と思った。
男はたいして自主性もなく、ぼんやりと生きてきたが、門の上で追い剥ぎをしてからたいそうよく働くようになった。荒れた都でそれなりに悪名も知れ渡り、いくつも悪事を打ち立てたが、特に語るようなほど大犯罪をやったわけでもない。蛇の逸話も知らない。
かの男について語ることもなくなったから、男の行方は誰もどうでもいいだろう。その時代の検非違使らと共に藪の中。
ちんちろり。