彼女は言いました
「Howdy、童話大好きの夢旅チロルです」
順番的に今回は西洋の童話から。実は日本昔話で語りたいこtアッーー!はい納期納期(ないです) 今回も自己解釈なオハナシ、そしてその童話の考察、の前後編で書きます。前回言った有名映画会社にも採用される、広く知られる有名なオハナシでしょう。ですがそれゆえに、私は今回初めて『分岐』を採用しようと思います。物語のラストが変わる、それくらいですが、重要です。 では、テーマから。
試練、壁の高さ、壁の痕。
・執筆から約一週間後のチロルの遺言「要素詰め込みすぎたら文章量ヤバくなったので分割します」
◎白雪姫
昔々は遠くて近い、少女の話をしましょう。
ある森のそばのお城に、お妃さまが住んでいました。季節は、冬です。しんしんと雪が積もり、みなが休む、冬です。お妃さまも心穏やかに、暖炉にあたりながら日々を過ごしていました。 このお妃さまはとても良いお妃さまです。それはそれは美しく、とてもきれいで、非常に雅な服が似合い、豊かな体つきで、これほどすばらしい美女は他にいないと言われるほどで… …え?なにか?
お妃さまはその冬、王さまとの子どもを身ごもっていました。 その日は予定もなく、ちくちく、編み物をしていました。赤ちゃんのよだれかけになるようなかわいいのを、あみあみ。窓の外は綺麗な雪景色。と、その指を針でうっかり、チクリ、と刺してしまいました。パタッと血が飛び散ります。「きゃっ、いたい! …あら、きれい」
お妃さまは、血があざやかな赤色なのに見とれていました。 黒檀で細工をした窓の向こうに、まっしろな雪景色があります。ガラス窓に散った赤い血は、白の上でよく映えます。
「まあ・・・。もし、赤ちゃんが女の子だったら、こう、ここが、窓枠みたいに黒くて、それでとてもまっしろで、特にもう赤いところが、この血みたいに真っ赤だとかわいいわねえ。そうねえ、男の子だったら……」
と、言っているところを、ビックリしたメイドさんが見つけて、ボタボタ血が流れている指のケガを治すために連れて行きました。
冬が明けて、お妃さまは元気な女の子の赤ちゃんを産みました。お妃さまは冬の間に編んだ布で赤ちゃんをやさしくくるみ、みんなの前におひろめします。 国民たちは、実に黒い髪だとか、白いつや肌の姫さまだとか、あの赤い唇の綺麗なこととか、さすが美しいお妃さまの娘だと、親子を褒めたたえたのです。
赤ちゃんはすくすく育ち、やがてお妃さまの望んだ話になぞらえて、白雪姫、と呼ばれるようになりました。教養もあって、おしとやかで、動物たちや民にも優しい白雪姫は、王さまや他の国にもよく好かれる女性に成長したのです。
ところで、白雪姫のお母さんであるお妃さまは『魔法のかがみ』を持っていました。自分をとくべつ美しく見せてくれるし、話すことができて、どこが綺麗かも色々に褒めてくれるのです。ちょっと喋りすぎるのが玉に瑕。いや鏡に傷ついてたらダメやろ。
「わたし、きれい?」『今日は髪の艶と肌の調子がよろしいデス、お妃サマ!』
こんな風に。しかし、最近お妃さまには憂いごとがありました。
『お妃サマの今日の口紅は白雪姫サマの唇そっくりでございマスね!』『その服であれば白雪姫サマの母にふさわしゅうございマス!』『おお、そのおしろいはまるで白雪姫サマ!』
「…ねえ…どうして白雪姫のことばかり引き合いに出すのかしら?」
『白雪姫サマは今朝咲いた薔薇のように美しいでございマスから!』
お妃さまは赤く腫れた手を振りながら、白雪姫のところにやってきました。娘は華やぐ笑顔で、ドレスの裾をつまんでお辞儀をします。「お母様、今日は何用でしょう?」
「ええと、姫。わたしねえ、手摘みの野イチゴが食べたいのよ。だから、姫にぜひね、ぜひ行ってもらいたいのよ」「 ? 」「姫が摘んでくれるとうれしいのよ、確か、そう、裏の林にあるって聞いて…… 摘むなら、この服を着て……」「あのうお母様、これはメイドさんたちが着るような…」
その時は野苺は季節外れでしたし、姫に教えたのも泥沼や茨がたくさんある場所でしたが、白雪姫は田舎娘のような格好で籠を持たされて送り出されました。強張った笑顔で姫を送り出してしばらく後、お妃さまは魔法のかがみに尋ねます。
「今日は、ええと、白雪姫のことについて尋ねてもいいかしら?」
『姫サマですネ! 蜜蜂たちに好かれるのを約束された果実の花のように美しゅうございマス!』
お妃さまが両の拳と額を真っ赤に腫らした夕方の頃、白雪姫が帰ってきました。服はどろどろで傷だらけ、籠は何かでいっぱいです。
「お母様、親切なお方が道が違うと教えてくださって、代わりに近くの農園で果物を採るお手伝いをして、りんごをもらってきましたわ。…きゃあ、お母様、手とおでこはどういたしましたの? えーと、えーと…お、お医者様に診てもらいましょう!」
二人仲良く、傷の手当てを受けることになったのでした。
その日の晩です。お妃さまは魔法のかがみに、問いかけていました。
「かがみ、かがみ…わたしはとても美しいでしょう」『はい、お妃サマはとても美しい』「でもねえ、白雪姫も美しい」『はい、白雪姫サマも美しい』「どうして、なぜ…白雪姫は美しいの?」『ええと…お妃サマにない物を…なんか、あるからデスね…』「どうしたら手に入る?」「得るのはむつかしい。なくすのはかんたんでしょう」
お妃の部屋の、擦りガラスの窓の外では、白雪姫がりんごを食べながら踊っているのが見えます。今日は部屋にお抱えの猟師がもう一人。「お妃さま、今日は顔の具合が」と言いかけた猟師をお妃は遮ります。
「姫を、撃ってきて。獲って、きて、ちょうだい」「……今なんと?」
「お前姫を撃って…なんか理由付けて…撃って、で持ってきて! それで、で、わたしが食べるの! 今日のディナーに食べるの! 姫のようになれるわぁ!」
猟師が急いで部屋を出て行った後、お妃は鏡の前でずっとおしろいを塗り続けていました。
猟師はあれこれ考えた挙句、いつも狩りをする時の格好で、猟犬を連れてしぶしぶ庭の白雪姫に話しかけました。声が強張るのを感じながら話しかけます。
「こんにちは、姫様・・・」「狩人様。ご機嫌麗しゅう」一礼。
「もし暇なら、俺と、森に行こうとしませんか」「すてきな考えです」にこり。
なんて無垢な白雪姫、猟師が騙そうというのに。以前彼女が森に入るのを見ていた猟師は、少し待たせて作業服に着替えなさい、と差し出しました。それでも美しさの褪せぬ白雪姫。どうか人の悪意にさらされぬように。
喜ぶ白雪姫を連れて、猟師は森の奥の奥へと入っていきました。その荷物の中に、今日の姫のドレスとりんごを入れて。犬が吠えるのが遠ざかり、それは城へも届くのでした。 姫は森をむじゃきに楽しみ、けもの道の険しさに驚きつつ、”散歩”を楽しみます。けれどやがて、空が赤らむのを見て、心から細い声を出しました。
「えーと、狩人様、狩人様。もう帰らないと、ああ、狩人様がお母様に怒られてしまいます」
「白雪姫様、ここまで来て実に優しい、あなたの心を信じましょう。だけど俺がお妃さまに叱られることも、姫さまが城に帰ることもない」「 ? 」
・・・猟師は嘘を濁すことにしたのです。
「姫様は命を狙われている。その格好のまま、森の住人を頼ってどうか生き延びてください。あなたは誰からも好かれるでしょう。あなたが好く人が現れたら、その人と幸せになるんだ。さあ、俺が手を貸すのはここまでだ!」
猟師はりんごの籠を押し付けて、「え? ???」猟犬と共に藪の奥に駆け込んで、二度と振り返らなかった。道半ばで猟犬が嗅ぎ付けたもっと細い獣道を進み、猪を撃ち殺すと、姫の普段使いのドレスを裂いてべったり血を付けた。 猪を裏口の小屋で解体し、姫の服で臓物を包んだ。血まみれの猟師はすっかり夜になった城内を歩く。お妃の部屋から召使が箱を抱えて出てきたが、暗さに互いはよく見えなかった。
「遅かったわぁ、喉を何も通らなくて、待ち遠しいったらないの。ふふうふ」
「姫を撃ち取りましてございます。私もためらいがありましたが、こちらが証拠です。服を捨てるのはお任せくださいますよう」
「おなかがすいたわ。今すぐ料理長を呼んできて、今すぐディナーを!」
「服は焼き捨てておきます」
「お母様ー」 「お父様ー」 「…狩人様ー」 「…誰かー…」
一方白雪姫は、ただでさえ慣れない森をふらふら歩いていました。あちこち痛めて月明かりを頼りにふらふら。夜の森の住人たちは、姫を構いも襲いもしないのでした。やがてぼうっと灯りが見えました。人工の灯火が見えたのに姫は喜んで、心身の痛みも吹き飛ぶほど駆け出しました。
小人のおうちです。「誰か、いらっしゃいませんか?」
返事はありませんが、生傷が痛むのが堪えて、姫は小屋の中に踏み込みました。不思議なことに、蝋燭がともり、暖炉の火はごうごう言い、窯は熱をたくわえています。そして机にはディナーが椅子の数分並んでいるのです。
「……おなかがすいたわ」
雑穀パンと獣臭い肉、その辺の葉っぱ☆塩と豆だけのスープを添えて ― 迷い家風味
一人分を丸ごと食べるのははばかられたので、それぞれの夕飯から少しずつもらうことにしました。姫はお腹が満ちるとどっと疲れが出て、硬くてボロ布のベッドでも、すうすう眠り込んでしまいました。
……やがて、小屋の住民が腹ペコで戻ってきました。そしてすぐに家の中がおかしいのに気付きます。
「俺の肉が足りひん!」「パンをちぎったのは誰や!」「女の匂いがする!」「「「嘘ォつけ!」」リンゴ入った籠がほっぽってある!」「変わった靴があんで!」「スープが豆だけや!」「なんや俺らのベッドで寝とる!」
「……えらいボロボロの嬢ちゃんやな」「こない森ン中に?」
やがて目覚めた白雪姫は、「はじめまして。おはようございます」とのんびり小人たちに挨拶をします。小人たちは多少呆れましたが、少女が美人で世間知らずそうなので、今のところは色々と許すことにしました。
「嬢ちゃんボロボロやけどエエ生まれやろ。なんや苦労しとるみたいやし、タダやないけど泊まってき。事情は聞かんし」
「まあまあ、ありがとうございます。ええ、命を狙われ…あら! ごめんなさい、みなさんのお食事をいただいてしまって」
「嬢ちゃん、そない時はごめんちゃう「 ? 」ありがとうごちそうさまや。申し訳ない思うてもろたら飯も気まずいわ。明るくしい」「……?」
白雪姫がとりあえずにっこりすると(本当はすごく臭かったのですが)、小人たちはほれぼれして、少女を迎え入れると決めました。
☆話は白雪姫3.1に続く・・・