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「ちっちゃな、私のヒーロー」

「先生、またナッツくんが倒れそうです!」
「ああっとナッツ君、止まれー!」
「プグシュー!!」
 こがね色のヒーローが、オーバーヒートもかくやという勢いで鎧を輝かせる━━煤の混じった煙を噴き出す。

「ナッツ!!デンジャー!!」

 私が大声を張り上げると、「ぷぐしゅっ」と煤けたくしゃみをしてナッツの輝きが止まった。ふらつきかけたナッツのところへ走り寄る。
「えらい、ナッツ!よく覚えてたね」
私たちで決めた号令。普段あまり使わない言葉で、止める。できたら、すぐに褒めてあげる。
 バトルコートの真ん中と、反対側。どちらも急に終わったバトルに苦言を呈することはない。もうない。
「すみませんキハダ先生、打ち止めで」
「いいさ、ナッツ君の勝負はいつ見ても刺激的だからな!」
「対戦ありがとうございましたー!」
クラスメイトとライチュウが、パタパタとこちらに手を振ってくれる。ナッツが眠たそうに手を振り返す。キハダ先生が「次、試合する人ー!」と呼ぶ間に、私はナッツに肩を預けられて、歩調を合わせて給水コーナーに向かった。
「ぽぐ!」とせいいっぱいの元気な声と共にナッツが私を見上げる。私は耐熱手袋でわしわしと頭の炎を撫でてあげる。くすぐったそうにする。
「だーいじょうぶ!先生の教えてくれたことちゃんと実践できてたよ。みんなもバトル夢中だったし」
「ぽぐるるぅ〜っ!」
「来週、実技テストあるからさ。参加しようね。それまでに、今回みたいなバトルする時の自分のボーダー覚えよっか」
「グルマ!」
 ナッツは思ったより熱血漢で。
人懐こくて、人助けが好きで、カッコつけで、突っ走りがちで、実は私の目の見えるところにいない時の方が慎重派。
 入学すぐは、小さい小さいと奇異と好奇の目で見られていたナッツは、そう時もかからず受け入れられた。今は、“ナッツ”としてみんなに認められている。これは私がどうこうしたわけじゃなく、ナッツ自身がテーブルシティを駆け回って人やポケモンを助けて回ったからなのだ。本当に驚いたしちょっぴり情けなくなった。
 昔からヒーローのポケモンだった━━
というのも、…きっと人とポケモンにとって…あながち間違いじゃないと思う。
 なお、入学1週間で布団を焦がす高熱を出しました。
結局無茶してるじゃん!そのお世話がしたくて私もほぼ1週間休んだから、結局ナッツはカルボウの頃から変わらず手のかかる大好きな弟なのだ。
「よっ」
「おつかれー」
 コート外の、バトル終わりの生徒とポケモンたちのためのスペース。キハダ先生が、タウリンやインドメタシン、プロテイン、ジュースを混ぜて作った色んな味のドリンク(味は絶対に保証しない)。
私たちがバトル学授業の実技に参加し始めて2.3度目くらいからだったか、自主的にポケモンがアシスタントをやり始めて、
「んげんっ!」
「どう、今日の味?まし?」
「ガーン……」
「あはははは!ダメっぽいよ、ナッツ!」
 差し出された二人分の紙コップを受け取ってナッツに渡してから、私はゲンガーの頭に「どうせ言われる前につまみ食いしたんでしょ!」とゲンコツを入れてやる。
哀れっぽい悲鳴を上げたゲンガーにナッツが笑って軽く肩をぶつける。冗談程度に頬を膨らませたゲンガーはナッツのドリンクを飲み干してしまい、「ぐるー!」と不満の声と共にゲンガーとナッツの追いかけっこごっこが始まる。
「ほんと、仲いいなー」
「信じられないよねえ」
「どの辺が〜?癒やしだわ〜」
 とほほえましく2匹を見守るクラスメイトの誰もが、この2匹がかつてガチで戦り合った敵同士だとは気付くまい。
 キハダ先生の優しさを一気飲みしてから、ミックスオレをカバンから出して、追いかけっこが終わるまで、芝生の上でのんびり今日の授業でナッツについて気付いたことを書き込んでいく。

「ぽぐるるる〜!!」「げひゃひゃっひゃっひゃっ!」「ジィルル!」「グヮーウウ〜!」

 触発されたらしいライチュウやガーディが追いかけっこの輪の中に入り(ケンタロスのクラスメイトが慌ててボールにポケモンを戻す)、「ぽぐるくるくる…」走りすぎてはやばやに目を回したナッツが倒れ込むのを、ゲンガーがクッションキャッチ。遊ぶポケモンたちも、クラスメイトたちもどっと笑う。
親しい笑いに包まれるナッツ。照れたようにゲンガーに顔を埋めるナッツも、肩の動きから一緒になって笑ってるのは明らかだ。
「はいはいゲンガー、連れてきて」
「ゲッツ!」
「あはは、ぷふっ…もう恒例だなー…そういえばナッツくんはともかく、ゲンガーってどうやって捕まえたの?」
「言えねー!」
「なにそのやましい事情ありそうなことー!?噂にするぞー!」
そして、ぜんぜん違うところから来た、今の私の友だち。
 私の隣に座る小さなナッツと、私の背中合わせで座るゲンガー。2匹は私の大切なポケモンだ。今はゲンガーだって、私の大切な家族。
まとめ終えたノートを閉じると、お母さんに今日のバトル学の話をメールで送る。相変わらず心配性な返事ばかりだけど、ずっと会ってないと寂しくて、私の方も庭にポケモン入ってない大丈夫、なんて心配性なメールを送ってしまうのである。やっと、お互い様になれて、大切な家族だと思えるようになった。
 ナッツはといえば、サプリ入りピーナッツクリームのパイをかじっている。
「ぷう……」
「あ、今日の味悪かった?運動あるから、多めに栄養取ってもらいたかったんだけど…薬の味出てるかな」
一度ピーナッツバター味出したら、それじゃないと食べてくれないワガママを訴えてくるようになっちゃって。そういうとこ子どもっぽく甘えてくる。甘やかす私。かわいいから仕方ない。それでいいのか。
『錠剤の方が楽』『そういうモノじゃないです』『確かにですね』というフレンドリィショップでのやりとり。
アーモンドを入れたりくるみを入れたり工夫はしてる。けど、もっとおいしく焼けるようになりたいなあ。家庭科の出席数もっと多めに取ろうかな。
「ナッツー、晩ごはんなに食べる〜?」
「ぷー?」
「もう学食でいいかなー…」
「ねえ、最近、疲れてない?」
 …うーん。
そうなのよね。ナッツの体力管理がうまくいかないのは、まだしかたない、と思いたい。
 わたし、私が、最近やることを増やしすぎている。
深夜まで机に向き合ってゲンガーに心配され、泥のように眠る毎日。時々昼間でも目がとろとろする。
ナッツ━━ナッツのようなプラスマークのポケモンたちのためになりたい、なれないなんてどうしようもなくもどかしいのだ。ちっちゃな子どもな体を壊す予感はあるのに勉強にしがみついて。

 ……私も、どこかヘンなのかもね。

 「ボン!」と背中を不意打ちに叩かれて、ほふっ、と息を吹いた私の猫背が正された。ゲンガーはそういうことをする。「何するのよ」と困り笑顔で振り向いた頃にはゲンガーの影しかそこには残ってなかった。こ、こいつ…!
しかし前に向き直った時にはもう、ゲンガーがばたばた霊力で教科書や筆箱などを宙に浮かべていた。今度は慌てて「わー、わー!」と手を伸ばすも虚しく「こ、こいつ!ナッツも止めてー!」「グルグルー」ついにカバンまで持っていかれ、
…ぼすぼす、と荒々しく勉強道具はカバンの中にしまわれてしまった。
「なにするの〜!」
「げんがっ、げっ、ゲゲゲゲッ」
「ぐるぽう…?ボウ!グルマ!」
一声あげたゲンガーに、ナッツが返事をして、立ち上がり。
「なんで!?」
 ━━私はカバンをかかえるゲンガーと、ほっぺに食べかすのついたナッツに見下ろされていた。
こういういたずらするゲンガーに飛びかかっても、影の中に入られてすっ転ぶだけなのよ!(経験済) 「あはは…」と笑う友だちももちろん、人間なので! そしてなぜ、ナッツも裏切り者ー!
 まふっ「ほわあ」、ぺしっ「いった!」、頭に2つ分の手のひらをもらう。片手の方は、威力の低いはたく攻撃を受けたところまで含めて撫で回す。
ああ、見上げる2体の表情がさ。
━━心配げなんだ。
私たちは本来言葉が通じないから、彼らは人間に表情を作り、行動と身振りで自分の気持ちを示す。それをうまく読み取るのもトレーナーなんだ。
 ナッツの熱の通った大きな手に両手を添える。
「…わかった、わかったよナッツ、ゲンガーも気を使わせてごめんね。今日の晩は部屋でのんびり遊ぼう」
「グルマウ!」
「もしかして、怒ってる?」
「グルル〜…」
いつもナッツを先に寝かせるから、私の無理を知らないのも仕方ない。でもナッツの声は、怒るより心配の色が強い。
私もどうやら、世話の焼けるトレーナーらしい。照れ隠しの笑い。
「晩ごはんも、どっか食べに行く?みんなでさ」
「ぽぐ?ぽうぽう!」
「ナッツの好きなデザートのある店久しぶりに、行く?」
「ぼーう!!」
「ふふふっ」
 私は、やっとしかめっ面をやめたナッツの胴に抱き着く。ナッツはちょっとよろけつつ、倒れ込むことなく膝をついて、私を抱き込む。自然と笑い声が出て、胴当てに頬ずりなんかしてみる。
あったかくてちっちゃな、大好きな私のたったひとりのヒーロー。ココロの年齢を先に上回られちゃうかも。
「ナッツ」「ぷふふ?」「大きくなったねえ」
カルボウの頃から。

   ━━ザワッ━━

「ナッツ!?ナッツでかくなったのマジ!?」「手ぇ触らせて!めっちゃプニいの!!」「大豆バー食べる?」「ナイトグレンアルマてえてえ…!」「あーーナッツくんはそのちっちゃいままでいて〜でも大きくなってもいいで〜!!」「身長また測らせて!ね!!かわいいから!写メも!」
「わーーーー!? そういう意味じゃないよみんなーーーー!!」
「グルボウ!ブシューッ!」
「ちょっ、そんな惨事じゃないから!わああああ私を守ろうとするな!キリッとするな!惚れるじゃん!!」

「彼氏面がよ…うらやましいぜ…」「げーん、がん」「うちに来な」「ヒュッ」「あ、お断りですか」

「どうしたナッツ君の!もしかしてまだバトルやる気起こしたか!?私も学ぶところがあるから何度でも見たいぞ!!」
「混ざらないでくださいキハダ先生!?ベトン極まりますから!あと今日先に帰っていいですか!」
「なに、サボりか!?いいぞ!有用に使ってくれ!」
「いいんですかっ!?」

 バトルコートには色んなポケモンが、人がいて騒がしい。私たちだけでもこんなに大騒ぎになれる。
「あはは、ナッツ、ゲンガー、早いとこ帰ろっか!いい晩ごはんのお店探そ!」「ポウ、ボウ、グルボーウ!」「しゅふふふ…」

 まったく…みんな━━楽しくて、たいへんなんだから!

 

 

☆私: チャンプルタウンのけっこういい家の生まれの少女。6~8?→12歳くらい。ワガママで強引な性格から、投げやりで自虐的な性格になり、明るく真面目にがんばりすぎる性格になった。
いくらか省略されたピケタウンのやり取りで、グレンアルマに進化したナッツを正式にゲット、大人しくなったゲンガーもゲット。すぐに仲良くなるも、アカデミー初日からレベルの高いポケモンを連れていたことでガチで心配された。
 家族: 夫を尻に敷く平和主義の母親、妻に弱い仕事だけバリバリの父、坊ちゃんプライドが強くてイラ立ち気味の兄。ろくでもねえな。

☆ナッツ: カルボウ→イワイノヨロイで進化→グレンアルマ
遺伝子不全で極端に小さなカルボウの男の子。進化してもその縮尺は変わらず。
体の弱さをものともしない思いやり深い性格。人間との生活の中で「心配をかけない」ためから「迷惑をかけない」振る舞いになったものの、絵本の中のヒーローに憧れてゆく。岸壁の死臭漂う『預かり屋』から逃げ出して数年、進化を経てヒロインの元に帰ってきた。万人のヒーローを目指しつつ割と彼氏面(のまねっこ)。
アーマーキャノンを発射できる、ということはLv60以上である。そりゃ学校も心配するわ。

☆ゲンガー: 野生テラスタル個体
無自覚に威圧感を放ちすぎて周りから避けられ、寂しかったのと、ガチで空腹だったために主人公を襲ったポケモン。
救助隊が勘違いして拾ってきたこと、大人しくしていたこと、ナッツが親しい姿勢を取り主人公が許したこと、自身も誰かと一緒にいたかったことから、あっさりゲットされる。
これが倒されて仲間入りする悪役…!
性別とNNは決めてないです。
ナッツと張り合える強さであり、そりゃ学校もry
 
 
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夢旅団チロル

はじめまして!文芸創作チーム夢旅団の団長チロルです。 うそです。通称チロルと申します。 想像の翼を広げてつかまえた光景を文字にするのがしゅみです。 「文字は遊び相手で、同志であり、親しき仲にも礼儀を尽くすこと」を モットーに今日も書いています。 最近は紙と鉛筆とサイコロを使ったオハナシで遊ぶのもしゅみです。 我々夢旅団のメンバーが書いた名義で本を出したり 中編やオマージュ作文などにもチャレンジしています。 夢旅団SSと称して短いお話を書く修行もやってます。 ファンタジーと水色時代を大切に、大人の苦みめざして成長中です よろしければ言葉と遊んでいってくださいな!

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